熊本市 遠藤洋路教育長に会い、感じ考えたこと
遠藤 洋路さんとの出会いは、教育新聞の「ウェルビーイング」についての記事についてお話をしたのが、最初だった。熊本市のウェルビーングの定義と捉え方、そして教員採用面まで変えていこうとされていることを知り、びっくりした。その時コロナが落ち着いたら、会いましょうということになり、7月広島・福岡の緊急事態宣言が解除されての訪問となった。
早速、「教育委員会が本気出したらスゴかった。」佐藤明彦著を読み、次に出された同じく佐藤明彦さんの「GIGAスクール・マネージメント ふつうの先生がICTを当たり前に使う最先端自治体のやり方ぜんぶ見た」という本を予約した。
この「教育委員会が本気出したらスゴかった。」を読んでいて、最初に一番感動したのは、熊本市長が、熊本の震災で、小学校も崩壊したりして学びが止まり、熊本城の石垣が復旧するのは、20年後となった時のことだ。「20年後といえば、次の子供達の世代ではないか!」「震災復興を担う人材を育成するためには”自ら考える子供”を育てる必要がある」「その為に、今一番投資すべきは未来を創る子供達への教育だ!」「だから二度と学びを止めてはいけない!」という腹の括りと覚悟・危機感を感じたことから、以前から関わりのあった遠藤さんを教育長として招聘したのである。遠藤さんは、腹を括った授業改革を学校ができるように可能な限りのの環境設定を柔軟に教育委員会が進めて行ったのである。その後、危機感と緊迫感をベースにマネジメントしながら物事は進んでいく。だからこそ、2020年の休校時に、自治体をあげて早い時期から対応できた唯一の存在となれたのだということがよく伝わってきた。
2021年7月26日10時、熊本最高気温38度という熱い中、熊本市教育委員会の遠藤教育長を訪問する。お忙しそうであったが、12時頃まで時間をいただいた。あっという間の2時間であった。遠藤さんとの第1印象は、非常に柔軟な思考をされていて、ビジョンを明確に示し、前向きに動こうという表明を明確に示し、できるところからやる!と宣言し説明する。その後は、スタッフを信頼しながら見守っているというやり方をやられているという印象だった。私との問題意識の共有もスムーズに進み、「学校は何のために存在するのか?」という課題についてお互い真っ向から話せたのがとても嬉しかった。そしてその先のビジョンまで明確に持たれていた。会談終了後、教育委員会の地域教育班の小原 恵二さんと昼食を一緒に摂ったが、教育長への信頼は絶大で、「どんどんやれ!」という安心感のもと、活きいきと仕事をされているのがよく伝わってきた。一方、教育長も「いろいろな企画をぐいぐい前に進めてくれ、頼もしい存在」と認められていて、こうした互いの信頼関係が、さまざまな取り組みの原動力になっているんだということを実感した。熱い熊本訪問となった。
【ビジョンを分かりやすく明確に提示する】
話の中で、教育長室の壁に貼ってある熊本市のビジョンを図解したものを見せてもらった。これが分かりやすい!この図を見て、思い出したのは多くの学校で校訓は、よく見られる(「質実剛健」などである)。しかし、例えば8年後のビジョンとか、5年後のビジョンとか、そこに向けて、どのような人材を育てたいとか、そのためにどのような学校にしたいというようなビジョンが示されないまま各教員に丸投げ?されている学校が多い。各教員は、その学校のビジョンがどのようなものでという理解が、きちんと対話を通しできていれば、みんなの力も結集しやすいし、ビジョンに向かうために今何をするかを示すこともできる。教員同士の対話も起きやすい。しかもチームで仕事する楽しさ、苦しさも共にという環境が生まれる。しかし、ビジョンがない、もしくは具体的で明確なものがない、ビジョンらしきものがあってもみんなが議論していなかったりして、単なるお飾りとなっている。こういう学校が多いのである。このような学校では、学校の改革はなかなか進まない。
これに比べると熊本市のビジョンは大切にしたいことが明確で、一つの学校のビジョンとしても使えると感じた。問題は、その共通理解が各学校で来ているかそれを咀嚼して、学校別の目標を作れているかがやや気になった。
その後
まだまだこれからの部分についてや、小学校の教科担任制・市立高校への対応・他の教育委員会の動き・地域での学校のあり方・学校の福祉面の役割と育てたい生徒像等、様々な話題についての意見を交換でき充実した時間を過ごすことができた。保守的な思考を持つ熊本市と聞いていたが、そこにおいても、最も大切にしたいビジョンを具体的に明確に各学校に発信し続けている。ICTを入れることは、目的ではなく「授業改革」こそが目的でありその為のツールとしてのICT導入は、授業改革を成し遂げる為の環境設定であるというスタンスを貫いているところが素晴らしい。そして、それに賛同して動いている教員や、どうしていいかわからないと困っている教員を全力で素晴らしいフットワークで支えられる体制を作りあげている教育委員会。まさに、「熊本モデル」というものを作り上げ、全国に発信することで、日本全体の教育を変えたいという遠藤さんの強い思いを強く受け止めることができた素晴らしい出会いとなった。
【オンライン授業のスモールステップ】
熊本市では、過程を段階ごとに下記のように、「やれるところからやる目標」として設定している。
<健康観察・連絡手段>としての、ステップ1=(ロイロノートで文字によるやりとりができる)、ステップ2=(ロイロノートで文字だけでなく写真等によるやりとりができる)
<健康観察・学習課題提出>としてのステップ3=(ロイロノート等を使って、教師から課題の提示、子供から学習したものの提出ができる)
<健康観察・学びあい>としてのステップ4=(ステップ3+提出されたものをもとに子供同士の学び合い、教え合いができる)
<健康観察・学び合い・発表>としてのステップ5=(ステップ4+子供がZOOM等を使って学んだこと、まとめたことを発表することができる)
お分かりだろうか、まず、「子供」が主語になったステップとなっている。次にどの段階でも必ず、<健康観察>がその基本となっている。これは、昨年の休校期間中、これさえも行なっていなかった学校が全国に多数存在していた。「課題爆弾」を投げ、子供たちは、おやすみだ。その間に自分たちも授業ないから、会議や溜まっていた仕事をしよう。休校が明けたら、その分夏休みを削り、今まで通りの授業を補完すれば大丈夫と考えた教員・学校も多数あったのである。こうした状況・対応だけだと保護者にとってみれば、山のような「課題爆弾」に対してそれを見てあげることもできず、家にいる子供が気になり仕事にも支障が出る。さらには精神的な負担が増える。場合によっては、ろくな食事も摂れず、休校明けには、痩せ細っていた子までいたということさえ出現。子供たちが心配にならないのだろうかと思う場面が多々見られた。当然、「なぜ、学校は、面倒みてくれないんだ!」「学校って何なんだ?」「なんのために学校があるんだ?」ということを保護者たちは考えるようになる。毎日、オンラインを使い、必ず健康観察の声かけをした熊本市では、学校に対する信頼感が強くなっていた理由はここにあったのであった。
ただ、そんな熊本市にも課題はある
小中学校134校中、ステップ3止まりの学校が多いことである。スッテップ4以上は、(中学校で8割ができておらず、小学校では6割ができていなかった)。これは、休校期間前にも学び合いまでできていなかった学校では、オンラインに変わってもやはりできていないということである。「ICTを入れることは、目的ではなく「授業改革」こそが目的」と遠藤さんが何度も発信されている理由はここにもある。
【不登校・オンライン受講】
休校期間中の一つの大きな成果は、
①「学校に来れない不登校の子も、オンライン授業には積極的に参加できた」ということである。学校の教室には行けなくても、オンラインであれば、意見まで、テキストで送ったりもする。しかも、
②オンラインは、子供は集中して聴くので、教室の授業よりも集中して授業を受ける子が増えるということも挙げられる。
①については早速熊本市では、8月初旬に「学校への登校が難しい児童生徒への学習支援として、教育ICTを活用したオンライン学習支援を行います。来年度からの本格実施に向けて今年度はオンライン学習体験を行います。」と発表した。学習体験を本年度行い、その上で修正し、来年度からの本番へ向かう。まさに、ICT化のところで取られた手法を取り入れ準備を始めている。素晴らしい取り組みである(まさにEDUACTION=熊本市教育委員会が掲げているスローガン)。
②に関しては、もともと熊本市は、セルラータイプのipadを入れたため、長く使うと通信量が上がるため、前半使い健康観察や指示を行い、それに基づき一旦切った上で生徒は自分で学習し、提出した頃にまた、繋がって授業を終えるという流れであったため、「集中して聴く」というメリットと「長い時間は疲れてしまう」というデメリットのいいとこ取りができている。ある他県の学校では、ずっとオンラインで繋ぎっぱなしで、7限目までやったという学校もあったが、それは、生徒が疲れてしまったのではないのだろうか・・・・
【教育委員会のスタンス】
教育委員会の会議の様子を熊本市は、YouTubeに公開している。こんな教育委員会を初めて見た。他の教育委員会を見ても、一般の人はその様子を垣間見ることなどほとんどないのが通常と言える。以前に東京の教育委員会会議の議事録(東京都の生々しく、教育委員が言っている場面を見たことはある)は、見たことがあるが、YouTubeで公開というのは、初めてであった。しかもその内容を見ると、教育委員が好き勝手な感想を言っているものではなく、私が見たのは、コロナ禍における2学期からの熊本市の学校の登校方法を教育委員会として、議論している様子である。問題点は何でそれに対してどんなスタンスで、発表するかを本気で議論しているのである。司会は、遠藤さんが行なっていたのもびっくりしたが、教育委員の一人である苫野一徳さんも彼の視点で提起していた。そこには、哲学者。教育学者というよりも、真摯に熊本の町の教育の実態に対して考えていることを述べており、通常、講演会などで聞くそれとは、口調も内容も異なっていた。遠藤さんに言わせると「司会は、主宰が教育長だからどこの教育委員会も同じですよ」でも「こんなことを本気で議論して決めて行っている教育委員会はあんまりないのではなかろうか」という言葉も衝撃だった。それにしても、かなりオープンにしている。遠藤さんのスタンスそのもだということを強く感じた。その会議の中でよくわからなかったやりとりについて尋ねても、明快な返事を返してくれた遠藤さんも素敵な人だと思った。以上のことから、全国の教育委員会を考えた場合、教育委員会の方向性・性格づけは、自治体によりかなりスタンスや、内容が異なるんだなあ・・・・ということを強く感じた。早速、京大の石井先生や西岡先生のオンラインセミナーで全国の自治体の教育委員会・教育長の視点・対応は、全国でバラバラかもしれないということを考えて欲しくて、教育委員会ごとの在り方という視点を提供したら、「新しい視点をありがとうございます」ということで終わったが・・・。
学校改革の促進
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