公立初イエナプラン校 福山市立「常石ともに学園」見学

 

11月17日(木)公立初となるイエナプラン校、福山市立「常石ともに学園」の見学予約がやっと取れての見学となった。常石ともに学園は、福山市の常石小学校を大きく改変する形でスタートした。
常石小学校は、福山市と尾道市の境目鞆の浦に近い海沿いの町にあった。高齢化が進み、子どもの数も少なくなる中で、2つの中学校と5つの小学校が義務教育学校(福山市立想青学園)として再編することが決まっていた。その状況でのイエナプラン校への転換を果たした。

学校見学会は、2022年6月〜2023年2月まで、全7日程の午前部・午後部に分けて行われての実施。合計14回の実施である。
6月に学校のホームページで見つけ募集が始まってすぐに申し込んだが、11月しか空いていなかった。既に全日程締め切りとなっている。すごい人気である。

2020年10月に行われた学校説明会には、のべ202名が参加。市内全域の在住者が対象になるが、移住者も受け入れている。東京都や埼玉県から参加する保護者もいた(市外からが6割も占めていた)。公立なので授業料は無料。入学が決まった20名のうち半分は、学区外や市外からの応募があったことからも伺える(全国から移住してきた人は5組)。

【内容】

13:00〜 校長・福山市教育委員会による「学校説明」
13:30〜 授業見学
14:00〜 校長・福山市教育委員会による「質疑応答」
という手順で行われた。
今回はその4回目の日程、午後のチームである。全員で参加者はほぼ20数名。神奈川をはじめ全国様々なところから視察に訪れていられた。
私の他に、元同志社中学の教員で、今は動物介在教育で独立した青木潤一さん、元西粟倉中学校校長の芦谷武司さんと共に予約して訪問。

【最初の印象】

まず、校舎の外観だが普通の小学校である。ところが校舎に近づくなり、その内部が見えてくると、とてもカラフルな教室が目に飛び込んでくる。
否が応でも期待とワクワクが増してくる。受付を済ませて、入り口の1F真ん中にある円形に椅子が並べられる部屋に通される。ここでも対話や集会が行われるらしい。

素敵な感じである。決して派手な改装が行われているというわけでもないが、ワクワク感を増すには十分な色使いと壁やクッションがある。さらに棚には様々な本が並んでいた。そこで、午後の部の見学者が待機する。

つい色々見たくなる。校舎内は基本オープンな印象を持っている。校長室も職員室(フリーアドレス)も、大きな絵が飾られた黄色のトーンの家庭科室も。そこで、受付におられた甲斐さんに話しかける。「先生は、自分から志願してここに来られたんんですか?」「私は、福山市教育委員会のものです。」とのこと。「ここに並べられている本は。子どもが選んでるんですか?」と聞くと図書係の先生が選んでおられるとのこと。

【学校説明会】

甲斐校長先生と、教育委員会の甲斐さん。ダブル甲斐で始まった。それと地元の住民との会合が頻繁に行われての開校ということが伝わる。地元の人に借りた畑での作物づくり土地の様子。水の供給、全てが探究につながる取り組み。ここでふと、「きのくにこども園」のことを思い出した。
ツネイシホールディングスの協力体制も見えてくる。
https://l.facebook.com/l.php?u=https%3A%2F%2Fyoutu.be%2FeJCzzsVqG7w%3Ffbclid%3DIwAR0eTMsH5zMpARSU2uCBzVREgVYdYgnLxtiZf3-wVoCQLIj72ZzU9v2-Q6Q&h=AT1oEj2V1knArBCTOMUZvw6lKN7bOHoTB28NGz-vVfM56ExZsFDbs-P43nVAiy5sFQ9_kaEx180-34IbrwIWu9EevNBDF7BU_hBQNYdoZYLXhteaMjIenSSylYBKjSLduskoQO7Equqs6O4rx2YJ6EvHKg&__tn__=-UK-R&c[0]=AT1eq1Cjz9Ly_gN7n-UQBQOzKFVILBI3lgH2w_DvMziRHrssq6TxvngkvgUS9o72ENHtgRUGsUONiVOAGevKlh1WhlqMqMxArXqJkHk2BpZJ-Kspshl_Zpr8sgHj6Wfp-_Eep6WqFBGywSmhqlgvfTZIH_GDKVqM-KL3t0iM7Mb_QaDz4r1I8b9y5DWVA0UTQtwFsd8PIBri63unhH2yeQ

配布された「学校要覧」を見ると、いくつか、見えてくることがある。
■児童数
全児童数、当初80名だったところが、現在126名となっている。人気が出てきているところが見て取れる。
126名に対し、特別支援16名は、やや比率が高い気がする。
教員は、高学年(4年〜6年)担当と低学年(1年〜3年)担当、特別支援(自閉・情緒)、特別支援(知的)担当に分かれている。

■イエナプラン教育
イエナプランには20の原則が存在する。それが1〜5=人間について、6〜10=社会について、11〜20=学校についてと分かれている。
ただ、ここで気になったのは、1〜5の人間についてのところ、これは、教育目標に値するところで、アメリカのハイテックハイの教育目標と被るという認識をしていた。

即ち、
ハイテックハイ:「公正の原則」を最も重要なものと考え、これが・職務一覧・カリキュラム・学級編成・学校組織・生徒に提供する教育内容の構成・評価等の全てに及んでいる。
その文言が以下の通りである。
「誰もが、人種や性別や、性的な意識や、身体的、もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値のある人間だと感じる学校」

一方、

イエナプラン(人間についての最初のコンセプト):
①どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。
②どの人も自分らしく成長していく権利を持っています自分らしく成長する、というのは、次のようなことを前提にしています。つまり、誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使ってものごとについて判断する気持ちを持てること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。自分らしく成長して行く権利は、人種や国籍、性別、(同性愛であるとか異性愛であるなどの)その人が持っている性的な傾向、生れついた社会的な背景、宗教や信条、または、何らかの障害を持っているかどうかなどによって絶対に左右されるものであってはなりません。

とほとんど同じ内容を含む。しかし、この「常石ともに学園」の学校要覧に書かれたものは、かなり端折って書かれている。まあ、わかりやすく「抜粋」ということかもしれないが、イエナプランが最も大切にしていることを端折ってしまっていいものか・・・?というのを感じてしまった。

■泥団子づくり(1年〜3年ワールドオリエンテーション)
ここで子供たちがハマる、泥団子作りが紹介されていた。
そこまではよくある話だが、なんと、その後国語の授業で子ども自身の言葉で、作り方などをアウトプットする場があるのが良いと思った。
その出来について大人も混じってみんなで評価しているところが素敵だった。
即ち、①泥団子(子どものやりたい)→②品評会(他者からの評価)→③自身の言葉での振り返り。この流れが自然で、押し付けがましくなく「何のために」が、明確でないとできないことかもしれないと感じた。

■コアクオリティ(大切にする関係性)
ここには、大切なものが見えてくる。(1)自分自身との関係(2)他の人との関係(3)世界との関係である。これは、私がいろんな学校の校長先生に提案していることと重なってくる。
ともに学園の学校要覧に書いてある内容とタイトルには、やや飛躍は感じるものの、この三つの要素自体を意識的に学校として捉えるところが、日本の学校では少ない。ということである。このことは、ピーターセンゲの「21世紀の教育」に自分・他人・社会としてそのまま出てくる。イエナプランにおけるワールドオリエンテーションに言うワールドとは、「外国という意味ではなく、自分の周りの世界という意味」であるから、まさにここにいう「社会」にあたるのである。

その中でも最も今までの日本の学校に欠けてきたものは、(1)自分自身を見つめるということである。自分のことを見つめる時間、それを他人と関わることでより見出す。これがすっ飛んでしまうと、高校1年生の終わりによく聞くような「さあ、あなたは文系ですか理系ですか?」と、教科書発注にあわせて先生は聞いたりすることにつながるのである。ここでは、全国の高校生の8割以上が「数学が嫌いだから文系」と決めてしまう。

だからこそ、それまでに「自分って何?」「自分って何が好き?」「自分は何がやりたいの?」「どうして自分はそう思ったの?・感じたの?」をもっと、もっと問いかけたりして意識する機会を作っておくことが必要だ、とより感じてしまった。

 


【授業見学】

見学者全体を、二つのグループに分かれての授業見学が始まった。

廊下を進んでいくと、ピアノが置いてある。校長先生が「これはストリートピアノです。」と言われる。つまり誰がひいてもいいわけである。
更に廊下を進むと、ランドセル入りの棚の上に個々人の名前がついたボックスがあり、そこに教科書が入れてあった。そこで、「棚の上に教科書を入れた箱があったんですが、子どもたちは教科書を置いて帰ってもいいんですか?」と聞くと「はい、それはすべて子どもたちの判断によります。」「ランドセルの方もランドセルでないバッグでもいいんですけどね・・・」とのこと。

教科書とランドセルも、日本では今問題になっていることである。ただ、教科書は日本では配布される。オランダでは、さまざまな教科書や資料が教室に置いてあるが、もし教科書を持って帰る場合も貸与なので、戻さなくてはならない。この辺はオランダとは異なるものの、子どもの判断に委ねるということは、素晴らしいと思った。

<4F図書館見学>

図書館は、床がグリーンのカーペット、本棚は白。ソファやクッションが置いてあり、くつろぎやすいムードが漂っている。本を見て回ると、分類がわかりやすく、視線の動きに従って、子どもの興味を惹きそうなレイアウトである。もしかしてと思い、校長先生に質問した。「このレイアウトは、児童文学評論家の赤木かん子さんの監修ですか?」と聞くと、「そうなんです。赤木さんにお願いしています。」とのこと。

赤木かん子さんは、平川教育長が横浜の時代から信頼している方である。今では、広島の多くの学校の図書館をリニューアルしている。目標は、こどもたちが読みたくなるような本の配置と居場所を作ることである。


<授業見学>

(3F学習支援+高学年)(2F低学年)

最初に飛び込んで来たので印象的だったのは、やはり異学年が合同にやられている授業である。
何より生徒たちの顔が温厚で、自然な感じである。私たちに対する挨拶も頗る自然なのである。しかも、大きいお姉ちゃんが、小さい子と手を繋いでいく姿とかは、とても心が和む。そして、生徒たちが楽しそうであった。教室には黒板はなく、プロジェクターで壁に投影されることがある感じである。

改装としては、教室と廊下の境壁を作りたくないということで、教室との境はすべて丸見えのガラス張りである。当然、授業中も廊下で学んだりしている。

イエナプランの4つの基本活動は、①サークル対話②遊び③仕事④催しである。
②の遊びは、「遊び」そのものが学びであり考える力や協働する力がつくという考えが根拠である。そのため、1日の教育活動の中に「遊び」が取り入れられている。さまざまな場所で、子どもがやりたいことを自由に選択して遊ぶことができる環境づくりを行なっている。「遊び」が学びになるようなプログラムが組まれているわけである。

授業は、「仕事」としての★ワールドオリエンテーション★ブロックアワーが行われていた。

★ワールドオリエンテーション(社会・理科)
(教科横断的に探究する学びの時間)
子どもたちが自ら問いを持ち、その問いを色々な人たちと共同しながら解決していき、解を見つけていく時間である。低学年では、「世界を知る」というようなテーマで、保護者の方が韓国のスーパーのチラシなどを映しながら、子どもたちに問いかけていた。子どもたちは、次々と発言して画面に集中している。

★ブロックアワー(国語・算数・社会)
(子どもが自分で教科の学習を進める自立学習の時間)
子どもたちは。事前に1週間分あるいは翌日分などの学びの計画を自分で立てていて、それを実行していく。先生はそれを把握しているのである。
高学年で、算数の授業があった。当然スライド等による一斉授業ではない。テーマは決まっているが、一人一人が別のことを行っている。中には、「謎が解けた!」といって他の子を連れてホワイトボードに書き込みに行く子もいた。先生は、一人一人に目を配り個別に話していくだけである。それぞれが思い思いの場所で、一人で、中には友達と一緒に学んでいる。

※ここで気になったことは、子どもたちは集中しており、笑顔で楽しそうに生き生きとしている。しかし、教員で笑顔でやられている方はいなかったのが気になるところであった。唯一生き生きされていたのは、ワールドオリエンテーションで話されている保護者の方であった。どうしてなんであろうか?

【質疑応答】

1Fのオープンスペースに再度、見学者みんなで集まり、質疑応答となる。出てきたもので印象に残っているのは以下の4つである

1)みんなで考える

今何がいるか?何が必要かなど生徒だけでなく保護者とも地域の人々とも話して決めている。公民館の館長さんなどは、いつも相談に行っているとのこと。来年度からともに学園は、「コミュニティスクール」になるらしいが、もう既にその素地は今でもできていると言える。このことを示すこととして次のことがある。常石小学校から「常石ともに学園」に変わることにより、常石小学校の在籍者は、近くのいくつかの学校を統合してできた義務教育学校「福山市立想青学園」にいくこともできたのだが、全員が「ともに学園」を選んでいるというのである。

2)ポートフォーリオ

子どもたちの日々の状況や成長を保護者に向けて発表している。

3)観点別評価

一人一人の力がついているか、をチェックプリントで行っている。その上で振り返りを1週間ごとに行い、子ども自身がやることを決めて、計画を立てられるようにしている。このことによりそれぞれのスピード、やり方(自己選択・自己決定)を決められるようにしている。子どもの成長のための評価がそこにはある。

4)自主・自立・自己実現

この教育目標を強調されていて、転勤でどんな先生が来られてもその先生方には、「今までに他の学校でやられてきた大切なものを、ここでやっていくだけです。」と強調された。

「転勤してきても大丈夫ですよ。」と言われたかったかもしれない。

しかし、
どうやれば学びのモチベーションを高めていけるかについて、いかに先生たちで試行錯誤を重ねてこられたのか?
「子どもの学び」をともに作っていく試行錯誤をされたのか?
を知りたかったが、その点に関するお答えはなかった。

※甲斐校長先生は、事前に個別の自由進度学習を展開していた愛知県の緒川小学校。大日向小学校を訪問されている。(Hillockのことも思い出した)

※オランダやマレーシアには、自分に合った教育を選べるだけの環境・学校がある。これが不登校が少ない理由である。日本は、一律な学校が多すぎるということを改めて感じた。

 

 

 

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