工藤 勇一校長に会う(2019年8月2日麹町中学において)

 念願の工藤勇一校長に、会うことができた。忙しいスケジュールの合間に時間を作っていただき、感謝している。学校の主要メンバーに、工藤さんの本「学校の当たり前をやめた」を配布している校長とともに訪問。先生のこの本を読んで、私が考えていたことを具体的に現実化されていることを感じ、無理を言って時間をいただいた。工藤さんが一番言いたいことは、民主的な国家を支える生徒を育てたいということを言われていた。「しかし、民主的な国家!などというと右翼と言われかねないので、分かりやすい言葉で言ってます」と言われていた。校長室の学校の教育目標にも「平和で民主的な国家及び社会の形成者を育成する・・・」と(教育基本法にもある)記載されている。
70年前に中学生向けに書かれた「あたらしい憲法の話」を思い出させる言葉である。

「いまのうちに、よく勉強して、国を治めることや、憲法のことなどを、よく知っておいてください。もうすぐみなさんも、おにいさんや、おねえさんと一緒に、国のことを、じぶんで決めていけることができるのです。みなさんの考えと働きで国が治まっていくのです。みんながなかよくじぶんで、じぶんの国のことをやってゆくくらいたのしいことはありません。これが民主主義というのです。


 私が聞きたかったことの一番は、学校の最上位目標をどうやって決めているかという点だった。?それに関して「生徒」「教員」「保護者」の話し合いの中に工藤さんがそれぞれに直接入り、「最上位目標は何か」を議論して決めていかれたそうである。なるほどと思った。学校の軸がしっかりして、ブレないのは、ここに理由があると感じた。この決定の過程で、工藤さんの信念や考え、大切なこととそうでないことが浸透していくのだと思う。ご本人は、「プレイングマネジャーですから」、と言われていたが・・・。
 また、この最上位目標が確定してそのためにどうしたら良いかという議論が「生徒どうし」「教員どうし」「保護者どうし」で自由になされるが、「この体制の教員の受け入れはどれくらいかかったのですか?」と聞くと、「3年かかりました」と言われていた。「それまでやっていたことを大きく変えることになるからですね」という言葉にご苦労と熱意を感じた。生徒間の議論について面白かったのは、「生徒は学年が違っても互いにタメ口で議論するんですよ。」という話だった。 これを聞いて、都立両国高校の英語の布村先生が、「議論したり、自分の意見を述べるためには、日本語より(敬語がない)英語の方がやりやすいんですよね」と言われていたことや、楽天の社内言語を英語にしたことで、会議での決定のスピードが上がったということと共通点を感じた。
  更に、興味深かったことは。最上位目標にこだわることにより、どうでもいいことは、問題にしなくなるという事実である。余計なことにエネルギーや無駄なことを教員も生徒も時間を割く必要がなくなること(例えば、金髪・ピアス等)そのうちに生徒も教員も大切なことに目が行き、結果的に落ち着いてくるということだった。工藤さんが日頃言われている「社会の中にたくさんある不要なものをキチンと見分けられる生徒が育たないと現実の無駄はなくならない」の実践そのものと感じた。

定期テストを、単元テストに変えた点については、「自分から主体的に学ぶ」ということにこだわってやられていることが、よく伝わってきた。分からないところが、分かるようにすれば成績も上がるという単元テストの再受験という仕組みを通して、生徒達は、次第に点数を取りたいというよりも、分からなかったことが分かるようになることに、その中心が移ってくるということだった。「それは、キャロルデユエックのいう、マスタリーゴールという信念が生徒の中に生まれてくるということですね。点数を取りたいというパフォーマンスゴールではなく」というと「その通りですね」と言われていた。

また、職員室に貼りまくった生徒に声をかける3つの言葉には、大きく賛同できた。

「どうしたの」

「それで君はどうするの」

「そのために私にできることはあるかい」

まさに生徒に自分がやりたいこと(自己マスタリー)を言語化させ、かつ「選択」の機会を提供する。一方で、そのためには自分は何でもするからね、と信頼関係をベースにした言葉で締めくくる。しかも、大人に対して自分の意見を言うことを恐れなくなる環境まで提供する。

実は、このことは、私が、河合塾において塾生に対して接してきていたやり方と同じことだったのに驚いた。 この「どうしたの」と大きく問いかけることにより、生徒が一番気にしていることを、言葉や態度、表情しぐさに表すのだが、具体的に答えられない生徒もいる。だから、緊張感を持って目一杯アンテナを張り、この子は、実際に何が言いたいのかを掴もうとしながら、さらに突っ込む。「それはどういうこと?」「具体的にはどういうことかな?」「こういうこと?」と引き出していくようにしていた。 生徒の考えが疑問、課題が具体的になったところで、「君はそれに対してどう思うの?」「どうしたいの?」を聞いていくのである。 そこで、本人がやりたいことを確認したら、やることは決まってくる。その上で最後に「僕にできることはある?」と聞くのである。ただ、この途中にずっと、緊張して相手の考えを引き出すようにしていくのだが、学校に入って仕事をするようになって、先生方と接する場面が増えると、学校では、生徒の考えを引き出すための問いかけがそれほどなく、緊張感がなくやられているケースを多く目にするようになった。これはどうしてなのか???

一方で、この言葉は、教員に対しても(※教員バージョン)同じかもしれないと感じた。例えば、こうである。
①あなたはこの授業で何を達成したいと考たの?
②本当はこの授業をどのようにしたかったの?それは実際にどう進んだの?次にもっと上手くやるには何をすべきだと思いますか?
③私たちは一緒に何を改善できるでしょうか?あなた自身の願望を実現するために何か私に手伝えることはありますか?

最後に、「働き方改革についてはどうですか?」と聞くと、固定担任制をやめ学年全員担任制(共同担任制)を取ることにより、互いのコミュニケーションが活発になり、互いの信頼関係も強くなることで、誰かがどうしても休みたい時や、急に病院に行くことになった場合、互いに「私が代わりにやりましょう」と補える関係になり非常に上手くいっています。
とのこと。学年間だけでなく教科間においてもコミュニケーションが取れず、それぞれの教員が抱え込んでいる(個業)状態の学校が多い日本の学校の中で、最上位目標や人のせいにしない仕組みによる、副産物としての効果も大きいと感じた。

麹町中学は、発展途上であり課題はまだまだある。それに対し試行錯誤を常に続けている。そこに工藤さんが訴える信念と思いに、学校を日本を変えていける原動力になれるものを感じた。
 どの学校の先生方も、自分は、絶対こういうことが必要。やるべきだと思うことを、学校の雰囲気や周囲が賛成してくれないということばかり考えて躊躇している場合ではないな。という危機感を改めて強く持つに至った訪問となった。

 

   

 

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