ヒロック初等部 一日体験
2023年2月21日
世田谷区の砧公園のすぐそばにある「ヒロック初等部」知り合いで飲み友の蓑手さん、五木田さんにお願いして見に行った。
「大歓迎ですが、小学生1年〜3年20名相手に授業をしてください。できれば、実験的な内容がいいですね〜〜〜」と言われた。
私は、高校生対象に年間150本くらい講演をしていたことがあり、「高校生対象に使っていた英語ネタを、小学生にぶつけてみよう!」と考えた。
朝9時にお伺いする。東京学芸大学の学生達も5、6名来始めた。一緒に今日1日体験するようである。
1)最初と最後には必ずやる、サークルタイムと、瞑想から始まる。
サークルタイムで最近の思ったことや、考えたことを伝え合う。
瞑想:チーン!という音とともに目を瞑りみんなが瞑想に入る。この状況をともに経験していると、
ピーターセンゲ「21世紀の教育」に出てくる外国の事例を思い出した。
その本に紹介されていたのは、子供たちが寝転がって、お腹の上にぬいぐるみを乗せ、そのぬいぐるみが自分の呼吸で上下することに気持ちを集中することで、
心の安寧を毎日体感するというやつであった。
即ち、自分自身の呼吸や、身体に意識を集中し、背中や床に接している自分自身を感じ取るというものである。
これをしない日は、心が落ち着かないという子どもたちの状態が生まれるというのである。
2)それが済むと、「自由進度学習」が始まる。
「自由進度学習」の展開は以下のような流れである。
①5分 課題設定(自分が今日学ぶことの目当てを記入する)
それに基づき15分づつ3回に分けてそれぞれが違う学習をする。
②15分
③15分
④15分
⑤振り返り10分(自分が決めた目当てに基づいたものを各自がやり振り返りをpc、タブレットで記入)
学習内容は、見事にみんな異なる。ただ目標は一つ「自分が学ぶこと」である。
漢字をやっている子もいれば、計算問題をやっている子、韓国語をやっている子、英語をやっている子、何と男女別年齢別人口動態の分析動画を見て、課題を抽出する子までいる。
目標の立て方と、振り返りが最も重要で、そこに各生徒が書き込んだ事を、蓑手さんと五木田さんがタブレットで、一人ひとりチェックをしている。
そこで「あれ?」と思った子には話を聞きに行く。
ある子の振り返りが甘いと感じた、五木田さんは早速話をしにいき、内容を聞いたら、きちんと考え自分を把握していた事を確認。
そう考えるのであれば、振り返りにその内容をきちんと記録するように諭す。「そここそが学びであるからである。」
目当ての設定が甘い子が、100点取れた!というと、「残念だね、課題設定が甘かったんだね。そこには学びはないよね。」
ヒロック初等部では、85%できるような課題設定を子供たちに求めている。
少し頑張れば届くような設定こそが、学びを生むと考えているからである。そしてその振り返りが明確であることがさらに成長が見られるとしているからである。
とにかく一人一人との対話が常である。
ただ、ここで、「わかんない!」と言った子を見ていた東京学芸大の学生が、「それは、◯◯だよね」と答えを教えてしまっていた。すぐさま、その子は、考えることを放棄し、答えに印をつける作業に入ってしまった。
わお!なんてこった!子どもの考える機会が奪われた瞬間であった。
3)お昼ご飯と遊び
隣の砧公園でハイキング風に食事を摂って、思いっきりみんなはしゃいでいる。やや寒かったもののみんなとっても楽しそうである。
4)私の授業
予定通り、高校生向けの英語ネタである。
「視点を変えてみよう」のテーマで、高校生に受けたネタをまとめたものである。反応するであろうか?
予想に反し、高校生よりも乗ってくる。不安もすっ飛ぶ。
「赤道」は、英語でなんていう?:高校生で最も多い答えとと同じ答えが返ってくる。「RED ROAD」。
これは地球規模で考えるんだよ。南極点と北極点からの同じ(equal)距離の点を合わせたものが「赤道」なんだ!
というと、「じゃあ、赤道は、円周だね!」という答えにビックリ。
タコは英語で言うと?:「octopus!」「octって8のことなんだけどさ、何でだろう?」
「足が8本!」これも高校生と同じ答え
では、octanってなんだろう?:「????」高校生と同じ反応。
そこで、「お父さんが、ガソリンスタンドで、レギュラー満タン!ハイオク満タン!って言わない?」
「このハイオクって、「ハイオクタン」オクタン価が高いガソリンのことを言うんだよね。」と話し、飽和炭化水素の話をする。
ほら、炭素が8個あるだろう?だから化学式は、C8H18と書くんだよと伝えると、
「じゃ、その周りにあるのが水素で、18個あるの?」と聞いてくる。何と言う反応だろう!難しい話にも食らいついてくる。こんなことを言う高校生は過去において一人もいなかった。
octaveは英語でなんて言う?「音楽!」と言うので
「歌ってみるか?ドレミファソラシド♪ほら8個!」「ホントだ!」
そこですかさず、「octoberは何月?」と聞くと、すぐに全員「8月!」と叫ぶ。
嬉しい限りだ。高校生はワンテンポ遅れて、「10月と答えると言うのに・・・記憶するだけの知識では学びが広がらないよね。と思ってしまう。」
そこで暦が変わったところの、暦と歴史話をするがその話にもグイグイついてくる。
全然話がビンビン反応して返ってくる様が嬉しい。子ども達にこれは難しいだろうなんていう尺度は、大人が勝手に作り上げたものだなと言うことを再認識した。
今回の授業の狙いは、英単語を題材にさまざまな角度から物事を見ていくと、いろんなものがつながり、いろんなことが重なり合ってくる。
英語をやっていてもそれが音楽、歴史、化学、地理とつながるんだ面白いよね!「視点を変えたり広げてみよう!」にあったのだが・・・
彼らの反応を見ると、不安も杞憂に終わったように感じた。
5)水を大切にする国連キャンペーンへの折り紙
ヒロック初等部に、ハチドリを折り紙で折り、そこに英語でコメントを記入して国連機関へ送るというものである。
そこで、まず、動画をみんなで見て、折り紙でハチドリを折っていく。
ところが難しい折り方にぶち当たり、一人の(人口動態を分析していた子)が、「もういい!諦めた!」と膨れていた。
するとその時、すかさず蓑手さんが、「あれ?難しくてできないと膨れている人がいるみたいだね」「自分の感情も自分でコントロールできるようになると、それが学びにつながるよね。」
というのである。これは一瞬難しい話をしているようにも見える。しかし、彼のことをいつも見つめ、わかって見ているからこそ言えるセリフなのである。
その証拠にその言われた子は、膨れ面が収まり自分で何とかしようと動いたのである。
6)プロジェクト開始(みんなで、「ヒロック初等部のPR動画を編集しよう!」)
これは、オオスミユーカさんが動画の編集の仕方を説明するのを食い入るようにみんな見つめて質問をする。
その上で、それぞれの役目を決めていく。ディレクター、原稿編集者、デザイナー等々それぞれ手を挙げて決まっていく。
みんなが一つのことを作り上げるそれぞれの役割を認識し合う場面であった。
7)掃除
決して、強制はしない。みんなの使うところを自発的に綺麗にするほうがいいよね。くらいのスタンスである。
8)終わりのサークルタイム、黙想
サークルタイムで、ある女の子が、「ものがゴミなのかある人のものなのか分からない。使ったらなおすようにすべきだ!」と言い始める。同調する子もいた。
すかさず、蓑手さんが、「しなくてはならないと人を縛るのは、どうだろうか?」との提言を行う。
問題が、単に一人の人の問題ではなく、みんなの問題だということに気づくことを求める。輪の中では、私たちは対等で、みんなが問題を抱え、
そしてみんなが互いに助け合いながら学ぶということが最も大切なことということが貫かれていた。
9)振り返り
子供たちが帰って、蓑手さんと私で、東京学芸大の学生に本日の感想と、私が見てきた学校の実態を話すが、全く誰からも反応がない。
小学生よりも反応や質問が出ないのである。あとで個別に聞くと、「大切な話を聞けてよかったです」としか・・・何でだろう????
先日、福井大学でも同じような光景を目にした。教育学部には、圧倒的に「教員になりたい」「現教員制度に乗っかって教員という職に就きたい」という人たちが多いという話である。
前日、新渡戸文化学園に行った際に出会った教育大大学院生と話しても同じテーマにぶつかった。
彼は、「教員養成に来ている学生は、第1の目的が、教員になりたい人」「今の教育制度に乗っかって、教員に就職したい人」が多いんです。
「僕は、今の教育自体の課題に興味があるので、その人たちとなかなか相入れない」と言う(たまたま同郷の福岡出身の学生だったが、教育関係の会社に進む予定だという。)。
このように、現状の肯定から入る人が多い状況で、本当に良いのだろうか?
先日の、苫野一徳×工藤勇一の対談で聞いたことが、頭を離れない。
教職員大学院の面接でも、教育委員会の教員採用試験面接でも、一番多い答えは、
「◯◯学校の時、出会った先生が、優しくて、面倒見てくれてその時の先生に憧れて、教員を志しました。」と言う答えが最も多いらしい。
「日本の教育の現状を、肯定している教員はいらないのにな・・・・・」「教育に課題を感じて何とかしたい、だから教員になりたいと言う人こそ欲しいんだけどね。」
まさにその通りである。今の教育学部、文部科学省は、この辺が欠落していないか?と疑問を持ってしまう。
今までと同質の教員を量産することにつながっていないのか?
いずれにしてもヒロック初等部では、「学ぶ」「成長するとは何か?」を大切にしている空間であると同時に、そんな子たちと1日一緒に過ごせた幸せを感じた。
「自由進度でも、学習指導要領を遥かに超えることを学ぶことは可能です。」と五木田さん。
「あの子たちとは、戦友と感じて日々過ごしている」と言う蓑手さん。
一人一人をきちんと見ていないと言えない二人の言葉であった。
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